心理的安全性の死角──戦略と現場をつなぐ場所で何が起きているのか|INNERSHIFT

執筆:最上 雄太

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職場における心理的安全性は、いまや多くの組織で共有されているテーマです。
メンバーが安心して発言できる環境を整えること。過ちや懸念を口にしても、罰せられたり恥をかかされたりしない状態をつくること。その重要性は、疑う余地がありません。

けれども、その議論にはひとつ、見落とされがちな場所があるのかもしれません。

“声が出せる場”を整えることに意識が向く一方で、
その声がどのように上へと届いていくのかという回路については、十分に語られていないことがあります。


ミドルマネジャーという中継点

ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー(DHBR)に掲載された
ヤン U. ハーゲン(Jan U. Hagen)/ビン・ジャオ(Bin Zhao)
「ミドルマネジャーは職場の誰よりも心理的安全性を感じていない:多くのリーダーが見落としている組織の死角」
(原題 “Middle Managers Feel the Least Psychological Safety at Work”)
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13024

は、その“見落とされがちな場所”として、ミドルマネジャーを挙げています。

世界規模で実施された調査では、ミドルマネジャーの心理的安全性スコアは100点満点中68.0点。
最高幹部クラス(72.7点)よりも低く、直属の部下よりも低いという結果が示されています。

数字そのものよりも注目したいのは、その位置です。

ミドルマネジャーは、戦略と実行のあいだに立ちます。
上からは成果と説明責任を求められ、下からは判断と支援を期待される。
その立場は、組織の神経系とも言い換えられるかもしれません。

もしこの中継点が、懸念や失敗を率直に共有することに不安を抱えているとしたら。
情報の流れは、どこで止まるのでしょうか。


「場」ではなく「回路」として捉える

心理的安全性という概念は、エイミー・エドモンドソン(Amy C. Edmondson)が提示した
心理的安全性(Psychological Safety)に端を発します。
それは、過ちを認めたり懸念を表明したりしても、罰や恥を受けることはないと感じられる状態を指します。

この定義をあらためて眺めてみると、「優しさ」よりもむしろ、
リスクを取って発言できる条件に焦点が当てられていることがわかります。

その視点に立つなら、心理的安全性は“場の雰囲気”というよりも、
情報が上へと運ばれていく回路が、折れずに機能する状態と捉えることもできるかもしれません。

現場が安心して話せることと、
その内容が経営層まで届くことは、同じではありません。

途中にある中継点が不安を抱えていれば、
悪いニュースは和らげられ、先送りされ、あるいは沈黙のうちに消えていく可能性があります。

記事では、「グッドニュース・バブル」という表現が用いられていました。
トップに届くのは良い報告ばかりで、組織の実際の揺らぎは可視化されない。
それは、誰かが怠慢だからというよりも、
構造が沈黙を生みやすくしている結果なのかもしれません。


沈黙は性格ではなく、構造の反応

ミドルマネジャーの心理的安全性が低い理由として、
昇進直後の不安、上層部のロールモデル不足、失敗を共有する仕組みの欠如、
同格の支援ネットワークの不足などが挙げられていました。

これらを眺めるとき、
「勇気が足りない」という個人の資質の問題として読むこともできます。

けれども、別の読み方もあります。

役割が変わった瞬間に、
発言が“意見”ではなく“評価対象”になる。
失敗が“学習機会”ではなく“キャリアリスク”になる。

そうした環境では、沈黙は合理的な選択になることもあるでしょう。

心理的安全性を「優しい文化」として扱うと、
沈黙は個人の問題に見えてしまいます。
しかし、それを「回路の健全性」として捉えるなら、
問いは構造に向かいます。


意図を共有できるかという視点

ここで重なるのが、
trait_11|意図共有力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_11/

という特性です。

意図共有力とは、
「なぜそう考えたのか」「どこが予定通りに進んでいないのか」といった背景を、
相手に伝わる形で共有する力です。

ミドルマネジャーの立場では、
上には状況の実情を、
下には判断の理由を伝える必要があります。

その往復が滞るとき、
組織は単に“静か”になるのではなく、
学習の速度を落としていきます。

心理的安全性を、
「安心して話せる雰囲気」だけでなく、
意図が上へと届く構造として見直してみると、
課題の輪郭は少し変わって見えてきます。


終わりに

多くの組織は、エンパワーメントという名のもとに、
ミドルマネジャーへ権限やツールを与えています。

しかし、もしその人たちが、
過ちや懸念を率直に共有できないと感じているとしたら。
与えられた権限は、静かな重圧に変わることもあるでしょう。

心理的安全性の議論は、
現場の声をどう引き出すかという問いから始まりました。

けれどもいま、
その声がどこで止まっているのかを見つめ直す必要があるのかもしれません。

あなたの組織では、
戦略と現場をつなぐその場所で、
どのような空気が流れているでしょうか。


参考文献

ヤン U. ハーゲン(Jan U. Hagen)/ビン・ジャオ(Bin Zhao)
「ミドルマネジャーは職場の誰よりも心理的安全性を感じていない:多くのリーダーが見落としている組織の死角」
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13024
研究領域:組織行動論/心理的安全性/ミドルマネジメント

エイミー・エドモンドソン(Amy C. Edmondson)
Psychological Safety(心理的安全性)
研究領域:組織学習/チームパフォーマンス/発言行動


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