キャリアの初期に高い成果を挙げてきたリーダーほど、組織が大きくなったときに、かえって成長を鈍らせてしまうことがあります。
自ら問題を解き、迅速に判断し、結果を出す。
その姿勢は、かつて確かに組織を前に進めてきました。
しかし、組織の規模が拡大し、環境が複雑化するとき、同じやり方が機能し続けるとは限りません。むしろ、「自分が決める」ことが前提になっているほど、意思決定は一人に集中し、組織はゆっくりとボトルネックを抱えはじめます。
なぜでしょうか。
問題は能力ではなく、別の場所にあるのかもしれません。
ヒーロー型成功モデルの構造
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された
ビル・フリン
「優秀なリーダーほど組織を停滞させてしまう理由──成果を挙げる『仕組み』をつくる4ステップ」
(原題 “Great Leaders Empower Strategic Decision-Making Across the Organization,” HBR.org, November 12, 2025)
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13087
では、リーダーが「ヒーロー」から「設計者」へ移行する必要性が論じられています。
ヒーロー型リーダーは、重要な戦略判断を自ら担い続けます。
意思決定は彼らの価値の源泉であり、「解決できる自分」であることが自己像の中核にあります。
一方で、組織が拡張可能な仕組みを必要とする段階に入ると、戦略的判断を共有し、他者が自律的に意思決定できる構造をつくることが求められます。
それでもなお、手放せない。
ここに、逆説があります。
なぜ手放せないのか──動機の層
この逆説を理解するために、「動機」という視点が役立ちます。
心理学における自己決定理論(Self-Determination Theory:Edward L. Deci & Richard M. Ryan)は、人の行動が内発的動機と外発的動機によって駆動されることを示しています。
内発的動機とは、活動そのものに価値を感じて行動すること。
外発的動機とは、評価や承認といった外部の報酬によって行動すること。
キャリアの早い段階では、「正解を出すこと」「成果を上げること」が評価基準になります。その経験を重ねるうちに、「自分が決めること」が有能さの証明になり、やがて自己価値と結びついていきます。
意思決定は単なる業務ではなくなります。
それは、自分の存在理由を確認する行為になるのです。
そうなると、権限移譲は単なる役割変更ではありません。
それは、「自分の価値を手放す」ことのように感じられるかもしれません。
このとき、手放せないのは能力ではなく、動機の構造です。
仕組み化とは、権限移譲ではない
フリンが紹介する4つのステップは、単なる分権化の話ではありません。
- 顧客知見の共有ブリーフィング
- 戦略的意思決定マトリックスの導入
- 学習のリズム(AARなど)の構築
- 戦略的意思決定ジャーナルの活用
これらは、「自分が決める」構造から、「共通の基準で決められる」構造への移行です。
ボストン コンサルティング グループ(BCG)の報告によれば、不確実性の高い環境で運営モデルと文化を見直した企業は、現場の意思決定の質を20〜30%向上させられるとされています。
ここで重要なのは、仕組み化がリーダーの退場を意味するわけではないという点です。
それは、リーダーが「答えを出す人」から、「問いと基準を設計する人」へと役割を変えることを意味します。
しかし、その転換は技術の問題ではなく、動機の問題です。
動機探索力という転換点
ここで問われるのが、
trait_02|動機探索力
https://innershift.jp/twentyfour-traits/trait_02/
です。
動機探索力とは、「なぜ自分はそうしたいのか」を掘り下げていく力です。
・なぜ私は重要な判断を自分で下したいのか
・なぜ他者の判断に委ねることに不安を感じるのか
・決めない自分に、価値はあるのか
こうした問いを避けたまま、仕組みだけを導入しても、プレッシャーが高まると元のパターンに戻ってしまいます。
ヒーロー型から設計者型への移行は、行動の変更ではなく、動機の再設計です。
「問題を解決できる自分」に価値を置くのではなく、
「他者が判断できる構造を設計する自分」に価値を見出せるかどうか。
その転換点に立つとき、リーダーシップの質は静かに変わりはじめます。
終わりに
リーダーの役割は、チームの中で最も賢いことではありません。
チームが、一人で取り組むよりも賢い判断を下せる状態をつくることです。
優秀なリーダーほど、手放すことが難しい。
それは能力が高いからこそ、成功体験が深く刻まれているからかもしれません。
あなたは、何を証明し続けているでしょうか。
その問いの奥にある動機を見つめるとき、組織の停滞は、別の意味を帯びはじめるのかもしれません。
参考文献
ビル・フリン
「優秀なリーダーほど組織を停滞させてしまう理由──成果を挙げる『仕組み』をつくる4ステップ」
ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス・レビュー
https://dhbr.diamond.jp/articles/-/13087
研究領域:リーダーシップ開発/戦略的意思決定/組織設計
Edward L. Deci / Richard M. Ryan
Self-Determination Theory
研究領域:動機づけ理論/内発的動機/自己決定
Boston Consulting Group
分権型運営モデルと意思決定の質に関する報告
研究領域:組織変革/意思決定モデル
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感情と意思決定、対話、リーダーシップの関係を
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本記事で扱った動機探索力は、
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