人は、自分の思うようにやりたい。
たとえそれが最善でなかったとしても。
たとえ結果が思わしくなかったとしても。
私たちは、判断を修正するよりも、
その判断を正当化するほうを選びがちです。
とくにリーダーという立場にあるとき、
その傾向はより強くなります。
なぜ、自分を疑うことは難しいのでしょうか。
矛盾を避けるという構造
この問いを考える上で、社会心理学の古典的理論が参考になります。
Leon Festinger が提唱した
**認知的不協和理論(Cognitive Dissonance Theory)**です。
人は、自分の信念と行動のあいだに矛盾が生じると、不快感を覚えます。
その不快感を解消する方法は、大きく二つあります。
- 信念や行動を修正する
- 矛盾を説明する理由をつくる
理論が示したのは、
多くの場合、人は後者を選びやすいということです。
つまり、間違いを認めるよりも、
「これは正しかったのだ」と説明をつける。
ここに、自己批判の難しさの一端があります。
正当化という安心
自己批判は、自分の一貫性を揺さぶります。
「自分は妥当な判断をしてきた」という感覚が、
揺らぐ可能性がある。
それは、能力への疑いだけでなく、
存在そのものへの不安にもつながりかねません。
だからこそ、人は無意識のうちに
正当化という安心を選びます。
結果が振るわなかったときも、
環境が悪かった。
タイミングが悪かった。
部下の実行力が足りなかった。
説明はいくつでも見つかります。
それらが完全に誤りだとは言い切れません。
しかし、そこに自分の判断の影響が含まれていないとは、
本当に言い切れるでしょうか。
「自己批判性」という特性
ここで思い出したいのが、Emotional Compassの特性である
自己批判性 です。
自分の考えや行動を振り返り、必要であれば修正する力です。自分を否定するのではなく、よりよくするために問い直す姿勢を指します。
自己批判性は、自分を責めることではありません。
むしろ、自分の判断を一歩引いて見つめる力です。
しかし、それは簡単ではありません。
なぜなら、自己批判は、
自分の正しさという土台を揺らす行為だからです。
リーダーの役割
組織において、リーダーの判断は方向を決めます。
その判断が正当化に守られ続けるなら、
組織全体もまた、その方向を踏襲します。
外部環境が変わっても、
前提が揺らいでも、
過去の成功体験が基準として残り続ける。
リーダーの役割は、常に正しい判断を下すことではありません。
むしろ、自らの判断を疑うことができるかどうか。
「もしかすると違うかもしれない」と
立ち止まることができるかどうか。
そこに、組織の変化の余地があります。
AIは結果を変えるのか
最近では、AIの活用が意思決定を支えるようになっています。
データ分析。
予測モデル。
最適化アルゴリズム。
しかし、もしリーダー自身が自分の前提を疑わなければ、
AIはその前提を補強する道具になるかもしれません。
人は、自分の仮説を裏づける情報を好みます。
AIが提示するデータの中からも、
自分に都合のよい部分だけを選び取ることは可能です。
そのとき、AIは結果を変えるのでしょうか。
それとも、もともとの傾向を拡大するだけなのでしょうか。
疑うという勇気
自己批判は、快い行為ではありません。
それは、安心から一歩外に出ることです。
しかし、安心の中に留まり続ける限り、
判断の枠組みは更新されません。
リーダーは、すべてを疑う必要はありません。
けれども、ときどき立ち止まり、
自分の説明の背後にある前提を見つめ直すこと。
それができるとき、
組織は同じところを回り続けずにすみます。
人は、自分の思うようにやりたい。
その性質は変えられないかもしれません。
だからこそ、
自分を疑うことを選び直す姿勢が問われます。
そこに気づかない限り、
どれほど高度なツールを手にしても、
結果は大きく変わらないのかもしれません。
参考文献
Festinger, L.(1957)
A Theory of Cognitive Dissonance
Stanford University Press
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